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 Paragraph  2008 バックナンバー

 

   2008年 12月号

 11月4日、夜7時帰宅の道連れは、七日夜の三日月とその背に乗るように右に並んだ木星。月が木星の南1゚56.4' を通ったそうな▼5日バラク・フセイン・オバマ氏(47歳)米大統領選勝利宣言。4年前の「リベラルも保守もなく、黒人、白人、ラテン系、アジア系のアメリカもなく、あるのはただアメリカ合衆国だ」という有名な演説をベースにさらに「若者も老人も、金持ちも貧しい人も、民主党員も共和党員も、ゲイも普通の人も、身障者も健常者も答えを出した・・・今宵change(変革)がアメリカ合衆国におきた。リンカーンの精神、キング牧師の夢が叶った日。繁栄、平和、アメリカンドリームを取り戻す為に一つになろう」と呼びかけ、人々は「Yes we can」と熱狂的に繰り返す。5年前イラク戦争に突入した国民は、更なる熱狂で氏を迎えている。その矛先の一つが日本にこないと誰が言えるだろう▼19日サッカーW杯、カタールに3ー1で快勝。ドーハの悲劇はこれで打ち止め▼同日、エルサレムのヘロデ王宮殿遺跡「ヘロディウム」のフレスコ壁画公開。鮮やかな赤色はポンペイ遺跡の壁画を連想させたが、矢張りイタリア人画家に描せたものとの事。美は国境を軽々と越える▼24、25日タイ国際空港を反政府占拠▼26日、インド・ムンバイ同時多発テロ。死者195人の中に日本の津田尚志氏も含まれる。世界の商都に赴く人々のリスクの大きさを改めて思う。中東の火はアジアにも及ぶ▼29日、フィギュアNHK杯女子フリー、浅田真央優勝。2位鈴木明子、3位中野友加里。18才の浅田選手が背負う重荷と、受け止めレベルアップし成長していく姿に感心する。30日、男子フリー織田信成優勝▼11月に入ると木の葉は少しずつ色づき、月終りには漸(ようよ)う紅葉(もみじ)も染まりはじめた。ムンバイの炎焔を映像で何度も見ている為か、紅色に心が中々躍らない。

 

   2008年 11月号

 我家の匂蕃茉莉(においばんまつり)は初夏に紫の花をつけ辺りにジャスミンの香を流す。今年は10月に入っても咲き続けていた。5日、突然金木犀が香る。10日ほどで辺りは銀杏(ぎんなん)の匂。銀杏の美味しさを思うと、この香も憎めない▼アルキメデスが風呂に入って浮力を、益川教授はバスタブを跨いでクオーク6種類を思いつく。野蛮人を自称する教授なら、アルキメデスのように「ヘウレーカeyphka(分かった)」と裸で飛び出したのではと思うが、風呂の時間は9時36分、家を出る時間は毎朝8時2分と几帳面。小林教授と73年に発表▼クォークとは64年にゲルマン博士が、「ユリシーズ」の著者ジェイムス・ジョイスの「フィネガンス・ウェイク」の作中の "Three quarks for Muster Mark " から命名。▼現在一番小さい単位は素粒子で、物質粒子はクォークとレプトンで共に6種類。レプトンにニュートリノがある。レプトンは聖書に一番小さな銅貨として出てくるが、「僅か」を意味する。どちらも宇宙を解くのに欠かせない▼南部博士は、素粒子物理学のパイオニアであり半世紀に渡る牽引者。7日、南部陽一郎米シカゴ大学名誉教授(87)=米国籍、益川敏英(68)京都大学名誉教授、小林誠(64)高エネルギー加速器研究機構名誉教授ノーベル物理学受賞▼8日、下村脩(おさむ)米ボストン大名誉教授(80)ノーベル化学受賞。オワンクラゲから取り出された「緑色蛍光たんぱく質(GFP)」は「レポーター遺伝子」として広く医学界で活躍。息子の努氏は、ファインマンのもとで物理を学び、映画『ハッカー』にもなった、コンピュータセキュリティ専門家▼10月は世界金融危機旋風が吹き荒れた。毎日株価が下がり、他国通貨も下がる中、外貨交換の行列。嵐は小休止したが米国大統領選後どう動くのか。気の許せない11月が幕を開ける。

 

   2008年 10月号

  9月1日、福田康夫首相(72才)辞任表明、在任365日。25日、小泉純一郎元総理大臣(66才)政界引退表明。お二人とも今後はビル・ゲイツ氏の様に福祉で活躍しては如何か▼24日、第92代麻生太郎(68才)内閣誕生。大臣資格は失言しない事ではあるまいに、地球ごと沈没しそうなこの時期にメディア姿勢に首を傾げる▼日本書紀に第28代宣化(せんか)天皇の「身狹桃花鳥坂上陵(むさのつきさかかのえのみさぎ)」と記された桃花鳥(ツキ)は江戸時代からトキと呼ばれる。字の如く白い羽を広げると、薄衣から緋色を透かした様な、淡紅の鴇(とき)色が顕れる。90年代、双子の金さん銀さんと共に、ニッポニア・ニッポンが絶滅しそうだと「ミドリ」と「キン」の名をよく耳にした。25日、10羽が佐渡で放鳥。白羽に塗られた識別マーカーが奇異だが、27年ぶりに朱鷺色が舞った。10年をかけ周辺環境が整えられ、田は農薬を控え里山も手が入った。地域ぐるみが保護センター。そうでなければ朱鷺は生きられない▼92年、兵庫県の中学生がツキノワグマ絶滅危機を知る。二百余人の生徒はそこに自分達の未来を見た。熊を守る事は将来の自分達を守る事。生態、環境、歴史、英語と取り組み始める。植樹祭の木は広葉樹に変り、天皇陛下ご夫妻への手紙は猟銃禁止令に繋がり、やがて『日本熊森協会』が設立される。政府援助のない民間レベルの活動だが、今も着実に活動を広げている▼日本国土の66%は森林。嘗て山は神聖な場で 稀に山伏の修験場がある程度。木々は秋になれば実を結び葉を落とし、森の生き物や地の滋養となり、豊かな水源があった。大きな熊達さえすっぽりと森の中に抱かれていた。戦後約50%が杉や檜の人工林になり、輸入材に押され放置され、花粉を撒き散らす▼28日、孔子生誕2559年。子曰、學而時習之、 不亦説乎〔子曰わく、 学びて時に之を習う、また説(よろこ)ばしからずや〕。

 

   2008年 9月号


ブラジル国花イッペ
雲が乗った様なパラナ松
ファゼンダ(農園)




 決断させたのは一葉の写真だった。1929年に宣教師としてブラジルに移民した大叔父の子供の一人、牧師の従叔父(いとこおじ)から送られてきた88才から66才まで8人兄弟姉妹と伴侶達の写真。全員健在なうちにブラジルの地を踏もう。8月のお盆を挟み11日間を捻り出し飛行機に乗る。サン・パウロで出迎えを受けクリチバに。教会に続く牧師館の前にはブラジル国花、黄色いイッペの花の大きな街路樹が続く。裏庭にはパラナ松が2本、枝を横に伸ばし緑の雲が乗った様である。南半球は今が冬。秋に採れた5、6p程の細長い実が塩茹して貯蔵されていた。今年は特に豊作であったという。余り甘くない栗に似て、さっぱりとして幾らでも食べられる▼翌16日は再従弟(はとこ)一家のバーベキューに参加。森の中で骨付きの肉を頬張りハンモックに横になる。3人姉妹の遊ぶ声を聞きながらいつしか睡っていた。牧師館に戻ると満月が煌々と輝いている。やがて月に地球の影が落ち月食が始まった。日本は今、この太陽の朝日を浴びている。月は8割ほど欠け、左の三日月調度24夜の様になると又、大きくなり始めた。この地でも盆の送り火を焚いた家もあっただろうか▼ベロ・オリゾンテはサン・パウロから飛行機で北へ1時間。市内から約40qを87才の長兄の運転でファゼンダ(農園)に向かう。リタイア後に178ヘクタールの牧場を持ち、夫人が遺伝学を活かし近郊一優良な牛を持つ。18世紀の建物の寝室の木の窓を押し開けると、バルコニーの先は牧場。白馬や牛そして鶏、珠鶏(ホロホロチョウ)、七面鳥、孔雀がのんびり遊んでいる。ダイニングの煉瓦の竈(かまど)には薪がくべられ、岩塩に包まれた珠鶏(ホロホロチョウ)が焼かれていた。自家製バターやリコッタチーズ等も芳醇な滋味である▼「『隣人を愛せ』というのは、先ず自分を愛し、同じ様に家族を愛し、隣人を愛すという事ですよ」「世界の不幸な人々の事も祈りの中に入れようと思います」心に沁みる言葉を聞く▼ミルキーウェイ(天の川)がゆったりと流れ、南十字星が横になっている。満天の煌めく星の中でなんと小さく儚げだろう。それでも長い方を5倍伸ばせば、天の南極。船乗り達はどれほど夜空を眺めて気づいたのだろう▼サン・パウロから大西洋沿いをリオ・デ・ジャネイロの方に約200q、末弟のファゼンダ(農園)がある。芸術家夫妻らしくアトリエと美術館さながらの家に、7組の夫婦が集結した。南十字星が光るミルキーウェイ(天の川)の下、プールで泳ぎジャクジーで暖まる。ユーカリとパラナ松の林がどこまでも続く中で、89才を年長に皆、子供時代に戻り楽しんだ。翌朝、牧場で採れた牛乳やバターやチーズが並ぶ。蜂蜜はユーカリの香りがしていた▼サン・パウロに戻ると、ブラジル名物のシュラスコ店に3世の再従弟妹(はとこ)家族を中心に2世、4世と20人ほど集まってくれた。再従弟妹(はとこ)達は日本語を解さない。代わりに流暢に英語を話す。賑やかにポルトガル語で話し合っている。来年金剛(ダイヤモンド)婚式の伯母の祝いの相談をしているという。何でこんなに仲が良いのだろう。日本人は何を忘れてしまったのだろう。一族を眺めながら、楽しい事だけでなく、辛い時も一緒に悩み、乗り越えて来たのだろうと思った▼27日、5年前からアフガニスタンで農業指導をしていた伊藤和也さんが拉致され遺体が確認された。現地の服を着て現地語を話し、アフガンの人と共に悲しみ共に喜んできた。ニュースはブラジルにも届いただろう。今頃、ベロ・オリゾンテのファゼンダの暖炉の傍の椅子の下では三毛猫が眠り、犬も牛も馬も鳥達も眠り、砂金を含んだ川は静かに流れ、新月になり星々は一段と輝いているだろう。そして従叔父夫妻はきっと眠りの前に、伊藤さんの事を祈ってくれただろう。そんな小さな祈りの一つ一つが鎮魂に繋がればと思う。

 

   2008年 8月号

 アンコール王朝は、第21代国王ジャヤーヴァルマン7世(1130年〜1218年)の時に最盛期を迎え、クメール王国の領土はほぼインドシナ半島全域に及んだという。道路網を整備し、街道には121の宿泊所、又102の病院を建てた。王はさらにアンコール・ト ム(大きな王都)に、美しい塔を意味するバイヨン寺院を建造する。須弥山を現す高さ43メートルの中心塔の頭には、東西南北に観世音菩薩の笑顔が彫られている。そしてそれを取り囲む大小様々な49の塔も、四面尊顔塔である。現存するのは179面というが、どれ一つ同じ笑顔はない。王は菩薩の慈悲が世界の隅々まで届くようにと造らせ、中央塔に黄金を貼った。青空に映える菩薩達の笑顔を前に、幾度となくジャングルの木々に覆われた歴史を思った。近くに建つアンコール・ワットを目指したカメラマン一ノ瀬泰造は、26才になったばかりの命を落とした。彼はアンコール・ワットを見ることが出来たのだろうか。そしてこの菩薩達はその時どんな悲しい笑みを浮かべていたのだろう。カメラに携わる身として、暑さを忘れた瞬間であった▼7月7日、街は夜の8時から10時まで暗くなった。第34回洞爺湖サミットを覚え6月21日と、2日間ライトダウンした。推進したのは「全国地球温暖化防止活動推進センター」(JCCCA Japan Center for Climate Change Action)。1999年に設立し、2004年に飯倉交差点近くの桜田通りに『ストップおんだん館』を開設。綺麗な広々としたロビーに、立派なパンフレット。夏は思わず涼みに立ち寄ってしまう。同センターの資料によると、2日間、2時間の合計は、参加施設149,937。削減消費電力量は 2,370,806.51kWh 。CO2排出削減量は925t-CO2。約6万4千世帯の1日の排出量に相当するとの事。是非もっと長時間、毎日に、と推進して頂きたい▼同日、北海道では22ヵ国の首脳が集まった。BRICsにアフリカ諸国など、これからの地球を考えていく上で外せない国々である。G8はもう必要無いのではないだろうか。霧に霞む天上ホテルでの会議は、地球温暖化、投機による原油及びバイオ燃料による食料価格高騰、サブプライムによる金融問題と課題選択は良いのだが、どれもただ笛を吹くだけの感が否めぬまま9日閉会。13日の日曜日、久々に広い道路の景色に1ヶ月以上いた検問車輌が去り、サミットが終わったと実感した▼17日、アメリカ大リーガー野茂英雄投手(39才)引退表明。彼のトルネードが見たくて、衛星放送の受信できるテレビを買った。朝に見る米国のナイター中継に、思わず両手を握りしめた。イチローが活躍しても、松坂が活躍しても、いつも野茂の姿が見たいと願っていた。13年間の大リーガー生活ご苦労様。そして有難う▼18日、夜11時、東京タワーの横に、マイナス2.7等の大きく輝く木星を真上に乗せた満月が並んでいた。月兎が二兎、ひっくり返って餅をつくのも鮮やかに見える。月が頭上に輝く星を頂くのを見たのは初めてである。ビール片手にその光景を心ゆくまで堪能した▼来月から又原油が上がるという。漁船は漁を休み、諸物価高騰の波及は見当もつかない。29日、サミットで妥結が約束されたWTO(世界貿易機関)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)決裂。それでも病気をせずに忙しく働いていられるならば、それに勝る幸せはない。そう信じて、この暑い夏を乗り切りたい。

 

   2008年 7月号

 東京から400q関ヶ原古戦場、それが宇宙ステーションと地表の距離。オーロラのカーテンの一番上の最も赤が濃い辺りである。6月1日午前6時2分、「宇宙なんてあんがい近いもんさ」と友人の歌声に送られ、星出彰彦宇宙飛行士(39才)出発。4日午前5時45分から3時間、地球2周の間に日本の実験棟「きぼう」取付け。5日午前6時『きぼう』と書かれた暖簾を潜りクルー入室。15日無事帰還。20余年、6千8百億円の成果前進▼14日午前8時43分、M(マグニチュード )7.2の岩手・宮城内陸地震。栗駒山麓の荒砥沢ダムは1996年に11才の少女に「藍染湖」と名付けられ、1998年に完成。「人」という字に似た湖の左足下の山が一気に崩れ落ち、グランドキャニオン宛らになった。せめて防災対策を万全にせねばと思う▼18日、ターシャ・テューダー女史92歳で死去。心暖まる絵本の数々が宝である▼雨に濡れ紫陽花が華麗だが、葉には「青酸配糖体」があり胃液と混じると青酸に。22日、つくば保健所はレストランが飾りに使い8人が食中毒と報告▼落書きといえば先ず浮かぶのは、1816年レマン湖畔のシヨン城を訪れたバイロン。柱に名を刻み、「シヨンの囚人」「シヨン城詩」の詩を創った。今はガラスで覆われ観光スポットである。それから約2百年、古い街の維持は、莫大な金と労力と住人に不便がかかる。日本人学生等のフィレンツェの大聖堂の落書きが問題になったが、敬意の心を育てたい。喩えバイロンほどの才能があったとしても▼26日深夜、六本木は客待ちのタクシーが溢れた。いつもは霞ヶ関にいたのだろう。風が吹いて桶屋が泣く▼31日、ビル・ゲイツ氏経営退陣。多才で敏腕な経営能力が、慈善活動にどんな風をもたらすのか、楽しみである。

 

   2008年 6月号

 5月2日夜から3日にかけ、ミャンマーの最大都市ヤンゴンの西、エヤワディ管区に最大被害をもたらしたサイクロン発生。17日現在、死者7.8万人、行方不明者5.6万人。各国の支援を政府が拒否し、更なる2次災害が予想されている。支援金は1.5億ドル集まっているが110億ドルを要求している▼12日、中国四川省でマグニチュード8の地震発生。28日の時点で死者6.8万人、行方不明者は2万人、負傷者は36.4万人。この地域は地震の多いところであり乍ら、手抜き工事が多くの子供達の命を奪った。当初混乱はあったがその後は日本を含め救援活動は進んでいる▼NY原油先物相場は、6日1バレル120ドルから毎日のように最高値を更新し、22日に135ドルに達した。その後反発があり31日は127ドル。今年のスタート1月3日は100ドル、昨年の1月5日は56ドルであった。原油高に伴う諸物価の値上げは嵐のように押し寄せている。限りある地球の資源を大切にというならば納得がいくが、投機の為とは▼29日、米サイエンス誌に米カーネギーメロン大学のトム・ミッチェル氏研究チームが、機能的MRIに60の名詞を思い浮かべた脳の神経活動の画像をスキャンし、コンピューター認識に成功したと発表。日本では倫理規制が厳しい分野だが、多くの難病の人々の意思伝達に光明である▼今や水着はマシーンとなった。スピード社の水着は新記録続出。30日、予てより山本化学工業から申し出のあったバイオ・ラバースイムを一部使った水着をアシックス社とデサント社が発表。が100%使うのが効果的という。世界にウエットスーツやトライアスロンスーツの大半のシェアを持つ同社が日本の為に開発し、外国メーカーに提供を断ったという自信作。メーカーの更なる開発に期待する▼アフリカには53ヵ国ある。その内40ヵ国が28日から30日開催の第4回アフリカ開発会議(TICAD)に出席の為来日。福田首相は各国代表と会い40億ドルの円借款を約束。1981年来日したマザー・テレサが「日本人は、まず日本の貧しい人々への配慮を考えるべき。愛は手近なところから始まる」と語った言葉も忘れてはならない▼31日、日本航空(JAL)の「鶴丸」マークの飛行機がラストフライト。1964年に海外観光渡航が自由化となり、翌1965年にジャルパック発売。1970年にジャンボ機が導入され、赤い鶴丸は尾翼に大きく輝き、男性は青地、女性は赤地に白い鶴のマークのバッグを肩に外国の街を闊歩した。いつの間にか海外に出られると言うだけで胸が高鳴った時代は終り、拙宅にも幾つかの航空会社のバッグが押し入れに睡っている。さようなら「鶴丸」。

 

   2008年 5月号

 4月2日、米航空宇宙局が直径24qの最小のブラックホールを特定。13日、ブラックホールを命名したホイーラー博士が97才で死去。15日、銀河中心の大ブラックホールが強烈なX線放射▼6日、月探査衛星「かぐや」から満地球(フル・アース)の昇る映像。静かに煌々と青く光るこの地球に、怒りや苦しみが満ちているとは▼1964年の東京オリンピック。聖火ランナーの伴走者に友人が選ばれた。胸に日の丸をつけトーチを掲げたランナーの後に大勢の白のウェアーの伴走者が続く。友は戻ってくるとトーチがどんなに重いか、掲げて走るのは大変であるかと興奮気味に語った。あの時、世界は平和が近いと信じていた。26日の長野の聖火リレーの伴走は警察官や機動隊員。沿道は中国の大きな赤い国旗で埋め尽くされた。中国留学生が日本にこれほどいたのだろうか。いやアメリカ、オーストラリアと中国はこんなにも大勢の留学生を世界に送り出しているのだろうか。世界中に散らばっている彼等の視点がグローバルであるようにと願う▼28日、旧神戸移住センターで太陽光を集めて一つの炎が生まれ、『友情の灯』と名付けられた。100年前のこの日、ここからブラジルへ781名が出帆。今年は「日伯交流年」である。ソーラー発電機で地球儀に充電された灯は、喜望峰廻りでサンパウロに向かった。現在ブラジル日系人は140万人。私の大叔父も1929年に妻子と5人、牧師として移民。その後5人の子に恵まれ、今やポルトガル語しか話せない親族も大勢いる▼聖火は去り、人々の関心はガソリン税に移り、30日、上野ではパンダのリンリンが静かに息を引き取った。目を上げると木々は新緑に覆われ、次の季節への準備に余念がない。

 

   2008年 4月号

  子供の頃から入ってみたかった1949年開湯の麻布十番温泉が3月末で廃業と聞き、土曜の朝タオルを手に行った噂の黒湯は、コーヒーの様である。1万年前の植物エキスはさらりと無臭、湯につかり肌を撫でると程良く滑る。サウナは一瞬にして身体が蒸気に包まれた。1967年の鉄筋の建物の中は、寅さんが地方で入った温泉宿の様と言えばぴったりか。しかし隅々まで拭き上げられた清潔感がある。広間で昼食をすませ外に出ると花冷えであったが、身体は芯まで温まっていた▼3月11日、土井隆雄飛行士ら7人を乗せスペースシャトル「エンデバー」打ち上げ。14日、日本の実験棟「きぼう」設置。18日、ブーメラン世界チャンピオン栂井(とがい)氏の紙製ブーメランの飛行実験。無重力でも3枚羽のブーメランは地上と同様な軌道で土井氏の手元に戻る。27日無事帰還▼ミャンマーやチベットでの僧侶達の蜂起は、虐げられ続けた民衆の呻きであろうか。14日、チベット・ラサでの暴動の真相は未だ伝わってこない。ダライ・ラマ14世の亡命生活も49年になるのだが▼15日、6時42分東京駅に1949年運行開始のブルー・トレイン「銀河」が到着。団塊世代と同様に定年を迎えた。狭い寝台、ビニールの臭い、ガタゴトと揺れ何度か目を覚ます。何より8時間が作れず利用しなくなっていた。銀河車中でのゆったりとした時間を捨て生きてきた、と改めて思う▼31日午後8時45分、ハンマーヘッド・シャークの様なT字型尾翼が南紀白浜から羽田に。平成の始まる半年前からのフライトに幕を閉じた。折しも東京は桜が満開。飛行機のスポーツカーと賞されたマクドネル・ダグラスMDー87型機の別れに相応しく。

 

   2008年 3月号

 2月17日東京マラソン、2位の藤原新(26才)が39q地点を走っていた頃、20qポスト少し手前の芝公園で応援。思い思いの衣装の中、細い金属の両足が目に飛び込んだ。松葉杖(Lofstrand crutch)を使い周りと変わらぬ速度で走っていく。隣の同じ黄緑色のウェアの女性は伴走者だろうか。公園では軽快な音楽が流れ、幾つのも団体が踊っている。配られた豚汁の椀を抱え込んでいる人達もいる。最後のランナー達は仲間と話しながら、携帯で話しながら、音楽を聴きながら歩いていった。先程の義足のランナー島袋勉さん(44才)は国内は勿論、ホノルル、ニューヨーク、バンクーバー等、数々のフルマラソンを完走し、海外でも多くの人に感動を与え有名な方だそうだ。2時間毎に義足を外し手当をし、勾配毎に足の角度調節をしながら6時間28分で完走▼同日、バルカン半島ではハシム・サチ首相(39才)が「この瞬間コソボは自由な国になった」とセルビアから独立宣言。12世紀にセルビア人が18世紀からアルバニア人も住み始め現在は88%。国際的には未だ独立を認めない国々もある。日本でも沖縄とアイヌの方達にどれほどの心の痛みがあるのかをよく考えねばならない▼19日4時07分、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が鮪延縄漁の「清徳丸」と衝突。漁師の吉清さん父子は未だ見つからない中、証言を二転三転させ、防衛大臣を含めた彼等は何を守りたいのか▼メタミドホス、パラチオン、ジクロルボス、ホレートと冷凍餃子農薬混合事件は1ヶ月たっても終結せず、有機リン化合物に詳しくなるばかり。真相の解明が中国にとっても得策だと思うが▼27日、農林水産省が平成18年度食料自給率レポート発表。日本は39%、その内穀物は175国中124番目の27%。2003年度のオーストラリア自給率237%(穀物333%)、アメリカ128%(132%)等は別格としても、国土の狭い欧州もフランス122%(173%)、ドイツ84%(101%)、イギリス70%(99%)と自給自足している。又、仮想水(virtual water)問題も軽視出来ない。これは輸入品が作られる為に使用する水量で、東京大学生産技術研究所の沖大幹教授等グループの試算では2000年度国内年間使用量590億立法メートルに対し、仮想水量は640億立法メートルとなる。日本は水源の乏しい国の水を使い、生産に伴う汚水を出している事が懸念される。日本の年間降水量は6,500億立法メートル 。35%は蒸発し、農業に555億立法メートル 、工業121億立法メートル 、生活用水162億立法メートルと 約13%しか使われていない。現在農地467万ヘクタールに対し、輸入量の作物を作るには1,200万ヘクタールが必要だという。山の多い日本はフランスのように見渡す限り農地にはできないが、今後を思えば出来うる限り自国生産のするべきだろう。その前に食物がどれだけ破棄されているかも気になる。

 

   2008年 2月号

 元旦の夜はガランとした街とは対照的に夜空は賑わった。日本では門松と呼ばれる双子座の兄カストル左足もとに、先月19日に地球に中接近した火星が未だ煌々と輝く。その光を分けて貰ったような赤いベテルギウス星のあるオリオンに従うのは、恒星で一番明るいシリウスを鼻に持つ大犬。そして冬の大三角のプロキオンを身体に秘め、主人を待つ子犬の瞳は涙で濡れたという意のゴメイサ星。牡牛は角を振り上げ、ペルセウス、W形のカシオペアの向こうに北極星を挟み大熊が柄杓の尾を垂らしていた▼23日東京で初積雪の日、ガザ地区のラファではエジプトとの壁が大きく倒され、物資尽きたパレスチナ人達が雪崩れ込み、89年ベルリンの壁を彷彿させた。ガザ地区とエジプトとの国境は11q。その3分の2が爆破されたという。牛、ロバ、荷車、羊等民族大移動さながらに人々は荷物を手にガザへ戻る。紀元前12世紀ペリシテ人が建設した地中海に面した温暖なこの地は、海岸線40q、面積365uの種子島ほどの小さな、しかし未だパレスチナとイスラエルの紛争の地である。東西の壁崩壊は平和への大きな行進に見えたが、世界は次なる壁に立ち竦んでいる。ラファの壁の行方はどうなるのかと思う▼25日、ノーベル生理学・医学受賞者の利根川進博士が 「DICE―K」と名付けた脳の海馬にある神経細胞だけで神経回路スイッチ操作の技術開発に成功。難病の人達の救いになる日が早く訪れる事を願う▼28日、ガソリン暫定税率延長是非で福田首相が「日本は経済協力開発機構国のうち25番目で非常に安い」と答弁。諸外国を見習うなら、基本生活の米、魚、肉、野菜等、最低必要限の値段を抑える所から始めるべきである▼30日、日本学術会議が代理出産原則禁止、法的母は出産女性と書案発表。少子化対策に真逆ではないか。子供さえ増えればよいという訳ではあるまい。子供を本当に望んでいる家庭で育てられる権利が子供にもあるだろう。一年かけた結果が事なかれ的な結論に終わらない事を望む。

 

 

   2008年 1月号

 12月4日、経済協力開発機構は昨年の国際学習到達度調査で、日本は科学応用力が00年と03年の2位から6位。数学応用力が00年1位、03年6位、06年10位。読解応用力は00年8位、03年14位、06年15位になったと発表。誰もが大学に行く時代に学力は下がるばかりである▼6日、英科学誌ネイチャーに、月の「海」の形成は43・5億年前と広島大の寺田健太郎准教授らが発表。月兎の年が判明した。因みに月は地球より一億年程若い45億才▼同日、名古屋大大学院の上田実教授授が「乳歯幹細胞研究バンク」を設立。昔は乳歯が抜けると「鬼の歯にな〜れ」と言って、上歯は縁下、下歯は屋根に投げたが、今は投げる所もないだろう。乳歯が再生医療の宝になる▼年金問題で11日町村信孝官房長官は「選挙中に言った事」、12日福田康夫総理大臣は「公約という程のものか」と発言。20日、薬害肝炎訴訟ではお金が掛かると一律保証を蹴る。 自ら谷底に落ちていくかに見えたが、薬害は28日、全面解決に向かい少し安堵した▼6日に450人を引き連れ小沢一郎民主党代表が、続いて27日に福田首相も訪中。親交はとても良い事だが要求ばかり呑んでいないかが気にかかる▼クリスマスの頃、毎夜ヘリコプターが飛び交った。東京タワー大展望台に点灯する赤いハートの撮影らしい。馬小屋で生まれた幼子誕生の夜、今年の東京の街は一段と光に満ち溢れた。熱源が違うとはいえ家庭の電気を白熱から蛍光に変えろという政府の広告が白々しく感じる。3年以内に電球を製造中止予定と19日発表されたが、エネルギーの無駄使いは他に幾らでもあるだろうに。エジソンもフィラメントの災難を驚いているに違いない▼28日、フィギュアスケート第76回全日本選手権は浅田真央、安藤美姫、中野友加里が1、2、3位。首位であり続ける厳しさをこの20歳前後の少女達は何時も教えてくれる。

 

 

 

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